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                  更新情報・お知らせ
                7/22を持ちまして今年度の小学六年生の新規入塾募集を終了致しました。
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                あしたのジョー

                あれは夏期講習が終わって一か月ほど経った時のことだ。
                その日、私はようやく仕事を片づけて、三日ぶりに例のホテルに入ることが出来た。
                私の行きつけの天然温泉付きビジネスホテルである。部屋に入ると、いつもならまず浴衣に着替えて温泉へ入るのだが、
                この日はなぜかすぐに温泉に行く気にならない。仕方なしにテレビをつけた。
                すると、懐かしいアニメがやっている。
                何だろう?と思って見てみると、私が小学生の頃にやっていた「あしたのジョー」であった。
                「ほう懐かしいな」と感じてボーっと見ていた。やっとひとりになれたな、という解放感を噛みしめながらしばらく見ていたのだが、
                見ているうちにだんだんと小学生のころには分からなかったことがわかってきた。
                それはジョーの暮らしている街のことである。

                画面にはジョーやおやっさん、ジョーを慕う子ども達の暮らす街が活写されているのだが、それが明らかに私の記憶の中の「泪橋」に酷似しているのだ。
                「泪橋」といっても、名古屋や京都にお住いの方にはお解りにならないだろうが、「北千住」といえば、
                日雇い人夫がその日その日の仕事を求めて集まる街である。
                下町と言えば聞こえはいいが、家族もなく、仕事もない人たちが集まる街だ。
                近くには一大歓楽街である吉原もある。

                実は私は学生時代に、この吉原がある東京の台東区三ノ輪にある個人塾で、五年間修行させていただいたことがある。
                「橋本学習塾」という塾で、八百屋だった古屋を借りて、塾長と夫人、先生二人と私の五人で授業を回していた。私の担当は英語と国語だった。
                私は先輩の紹介でこちらにお世話になることになったのだが、採用の前に、塾長による面接があった。
                二十歳の私は、面接の場所が日本で有数のドヤ街であることも知らないで先輩についていった。
                塾長は私と話しだすと段々困ったような顔になった。
                そして最後に少し考えさせてくれ、と言われたような気がする。

                当時の私は、勉強してきただけのなんの面白みもない人間だった。
                おそらく塾長は、こんな人にはうちの生徒を任せられないと思ったのだろう。
                しかし、数日後先輩から「採用するから来てくれ」と連絡があった。
                まず一ヶ月間は先輩の授業を後ろで見て、その後一人立ちできるという。
                私が後ろで授業を見学していると、下町の子は新しい先生が来たと思って興味津々で私のことを見てくる。
                初めは見ているだけだったのが、やがて話しかけてくる。
                大学はどこ? 先生とはどういう関係なの? 彼女いる? などなど…。

                今ならわかるのだが、本当はここで馴れ馴れしく話してはいけなかったのだ。
                だが、当時の私は何もわかってはいなかった。調子に乗ってべらべらと話してしまった。
                そう、子供たちの罠にはまってしまったのだ。

                やがて見学期間も終わり、私一人で授業をすることになった。
                しかしマニュアルも無いし、カリキュラムもない。全て大学生の私に任されている。しかも1クラスが30人位いた。
                みんな元気のいいドヤ街の子どもたちである。
                つまり、私の授業が崩壊するのは、時間の問題であった。
                私が教室に入っても、みんな後ろを向いて話をしている。授業を聞いてくれる生徒が、数えるほどしかいない。
                静かになるのは、塾長が見学に来たときだけである。
                私は怒ったり、怒鳴ったりしたが、それでもだめ。彼らはケンカの仕方はお手の物だ。
                私が怒鳴ったって、何でもなかったろう。

                そんな日々が何週間か続いたある日のことだ。
                相変わらず騒がしいままに終わった授業の後、いつも前の方に座ってこんな私の授業でも黙って聞いてくれていた子が、私に話しかけてきた。

                「先生、なんでみんなが先生の授業を聞いてくれないかっていうとね」
                「何で?」
                「何で聞いてくれないんだろう」
                「それはね、先生が人間として尊敬できないからだよ。」

                私は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受け、とぼとぼと駅への道を歩いたのだった。
                何でだろう、どうしたらいいんだろうとつぶやきながら。















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