心を保つために U
人生は逆境の連続だ。
何もかも親の保護の下で守られている子供の時は別として、学校に上がれば勉強しなくてはならないし、友達ができずに、いじめにあうこともある。
一生懸命に学んだ結果、無事上級の学校に合格することができたとしても、ホッとするのもつかの間、
速い進度ですすむカリキュラムに乗っかって、走り続けなければならない。
そして学校を卒業した後では、仕事に追われる。
働いても働いても心が休まることはなく、ノルマに追われ、稼いでも稼いでもどこかに不安がついてくる。
成功すれば、成功し続けるプレッシャーが追いかけてくるし、失敗すればそれはそれで苦しまねばならない。
今やっていることがうまくいっても、うまくいかなくても、追いたてられ、どこかにびくびくして生きていく。
心が何ものにも囚われず、何ものにも煩わされない、深い落ち着いた気持ちになれないものだろうか。
なぜ、いつも何かに恐れていなくてはいけないのか…。こんな気持ちで働き、生きていていいのだろうか。
36歳を過ぎたあたりから、絶えずついて回る不安や煩悶に支配されて生きているよりも
もっと明るく楽しく生きられるようにならないものだろうかと考えるようになった。
本屋に行って本を読んだり、色々な人の講演会を聞きに行ったりした。
が、その時はいいなと思ったとしても、それはその一晩だけですぐに元の自分に戻ってしまう。
しかし、研究をはじめるうちに、少しずつ少しずつ、いい時はもちろんだが逆境にいる時でも自分を明るく穏やかに強く保つための方法が分かってきた。
そもそも、なぜ私が心の持ち方について考えるようになったのか?
私の仕事は崖っぷちにいる中学受験生と、その保護者の方々を支え励ますことだ。
ギリギリのところで踏み止まらせて努力を継続してもらい、一つ一つパズルをはめるように手を打ち続ける。
そして、はじめはバラバラに散らばっていたパズルの全体像が見えてくるところまで必死に支え、寄り添い歩き、
勝負どころが来たら一気に合格させる。
しかも、一人ではない。何人もギリギリで踏み止まっている人を支えていく。とても精神的に強くなければやれない。
しかもこれが毎年続くのだ。昨年もそうだったし、今年もそうだろう。
だから、私が燃え尽きたら終わり、なのだ。
それゆえ、私にはギリギリで踏み止まっている保護者の方の負のエネルギーを受け止めて、プラスのエネルギーに転換する技術が常に求められている。
自分自身、「人間とは何なのか」「何のために生きるのか」「人の心とは何か」
「いつも心を強く明るく、勇気と愛情に満ちた状態でいるにはどうすればよいか」
「どうしたら怒りや妬み、悲しみに支配されている人を、喜びと感謝、愛情に満ちた心にできるのか」を真剣に考えなくてはならなくなった。
人の負のエネルギーを受け止めた上で、その負のエネルギーを正のエネルギーに変えて、
喜びと勇気と愛情をさらに深くしてクライアントの方々に帰ってもらう。
そのためには自分の心の持ち方を、そして心の扱い方を学ばねばならない。
負のエネルギーは決して良い波動ではないから、その波動を受け止めたことで私の心に限界以上の負担がかかるとどうなるか。
表向きは解決できたとしても、私の周りにいる人、妻や子供たち、家族や先生方、アシスタントといったスタッフに
負のエネルギーが押し付けられるとなると、それは後で必ず更なるマイナスとなって還ってくる。
世の中のパワハラというものは、この負のエネルギーを弱い者に押し付けることが原因で起こる。
私が受け止めた負の力を人に押し付けることなく、クライアントも私の周りにいる家族・スタッフも、そして私も幸福になれる心の持ち方を体得すること。
これは一見とても大変そうに見える。大変なことに間違いはないのだが、分かってくると確実に楽に生きられるようになる。確実に。
今まで「結婚について」考察し、「どんな時にも心を保つため方法」を述べてきたが、
今月から「逆境にいる人を支えた上で、回りの人を幸福にするための、そしてもちろん自分自身も幸福にするための、
心の持ち方・扱い方について」を書いていくことにする。
この文章をお読みになる方に、いくつかあらかじめ知っておいて頂きたいことがある。
今まで述べてきたように、私は必ずしも恵まれた家庭環境に育ったわけではない。
そんな私が自分の心や他人の心を穏やかにするなんて、無理だろうと思う人もいると思う。しかし、それは可能であったのだ。
だからもし、あなたの育った環境に何かあったり、あるいは過去につらい体験があったとしても、
そのつらい体験ゆえに変われないということはない、ということが分かってもらえると思う。
今更、もう年だし、こうやって生きてきたし変われないということはないのである。
心はその人、あなた自身が明るく前を向いて、勇気と希望に満ちた人生にしたいと思えばその通りになれる。年は全く関係ない。
それでもすぐに元の暗い状況に戻ってしまうという人には、心の扱いは不断の努力とケアがいることが分かるようになる。
次回からは、この複雑で残酷な、成熟した日本の社会で、明るく前を向いて、勇気、希望、愛に満ちた心で生きる。
そのための具体的な心のケアの仕方について書いていきたいと思う。